あなたの知らない入院形態のお話

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今回は仕事の話と言うよりも、あまり知られていない(かもしれない)病院への入院に関する話です。
自分自身も看護学校で習いはしたけど、割と知らない事が多かったなぁと思ったので、まとめてみようかと…

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そもそも入院とは?

あえて説明するまでもありませんが、「院」と名の付く施設に入ることを言います。
一般的な用法としては、何らかの疾患を持った患者さんが治療や検査の目的のために一定期間病院に入ってすごすことをいいますね。
今回の記事でもこの意味で「入院」と言う言葉を使います。

患者の同意により入院する入院形態

ほとんどの病院で運用されている入院形態です。
通常、医師が入院して治療や検査を行う必要があると判断したとき、医師が患者に対して説明を行い、患者の同意の下、病院に入院し治療等を行います。
一般的に入院と言えばこの形態です。特に名前は定義されていません。

過去には、医師が高圧的に「入院しなさい!」というような事もあったようですが、現在では「インフォームドコンセント(説明と同意、あるいは納得診療)」が必要になっています。
そのため、医師が患者に対して入院治療や入院検査の必要性を十分に説明し、患者が納得し理解した上で同意して初めて入院するという流れになっています。

感染症法に基づく入院

感染症法とは?

感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)とは、様々な感染症に対して、それらが流行し国民の健康を害することがないように予防するための様々な措置が決められている法律です。
以前は「伝染病予防法」でしたが、患者さんの人権への配慮などを追加し、さらに「性病予防法」「エイズ予防法」を統合して1999年に施行されました。また2007年には「結核予防法」も感染症法に統合されています。

ヤバい感染症にかかると入院させられる!?

感染症法では、様々な感染症をその危険性に応じて、第一類〜第五類まで分類しています。
またそれ以外に特別な対応が必要と思われるものは指定感染症、新たな感染症で危険性が高いと思われるものを新感染症として分類します。
このうち、第一類感染症は最も“ヤバい”感染症として、危険性が高いと判断されています。
この第一類感染症に感染してしまうと、都道府県知事から入院を勧告されます…!

ちなみに第一類感染症ってどんな病気?

第一類感染症に指定されているのは、次の7つの感染症です

  • エボラ出血熱
  • クリミア・コンゴ出血熱
  • 痘瘡(天然痘)
  • 南米出血熱
  • ペスト
  • マールブルグ病
  • ラッサ熱

普段聞く病気ではないですが、どれもこれもヤバいヤツばかりです。
例えばエボラ出血熱は感染するとだいたい死にます(致死率が50〜80%あるそうです)
マールブルグ病は治療法がないです。あとそこそこの割合で死にます。
天然痘やペストは、昔かなり流行ってかなり死にました。
天然痘に関しては撲滅に成功していますが、それが故に現在は抗体を持っている人がほぼいなくなっているので、生物兵器に使われると多分半分ぐらいの人が死にます。

…とまぁ第一類に指定されているものは、致死率が高かったり治療法が確立されていなかったりと、かなりヤバいやつです。
そのために、新たな感染者を産まないようにするため、感染してしまった患者に対して入院を勧告するわけです。

第一類以外でも入院を勧告されることも…

実は、第二類感染症でも入院を勧告される場合があります。
第二類感染症には、結核や鳥インフルエンザ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)などが指定されています。
さらに、新型インフルエンザや新感染症も入院勧告の対象になることがあります。

これらももし感染してしまうと重篤な症状を引き起こしたり、治療法が確立されていないために感染拡大を引き起こしてしまったりする恐れがあります。もちろん死亡することもあり得ます。
そういった事から、やはり感染拡大防止のため、感染してしまった患者に対して入院が勧告されます。

入院勧告を無視したらどうなるの?

感染症法による入院勧告ですが、あくまで“勧告”ですので従わない人が出てくることも考えられますよね。
しかし、感染拡大防止のために行う勧告ですので、もしその勧告を無視されると、社会的に大変な事態が起きることが予想されます。
そこで、勧告に従わない人に対しては、その患者を医療機関に入院させることができるようになっています。(強制的な入院措置)
言わば勧告の段階で事実上の入院命令なわけですね…
かかってしまったものは仕方ないので、治療に専念しましょう、と言うわけです。
ちなみに以前存在した結核予防法では結核の感染力が強い患者に対して命令により隔離入院をさせていました。

精神保健福祉法に基づく入院

精神保健福祉法とは?

精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)は、精神保健と精神障害者福祉について規定した法律です。
この法律は「精神障害者の医療・保護、その社会復帰の促進・自立と社会経済活動への参加の促進のための必要な援助、その発生の予防その他国民の精神的健康の保持及び増進により、精神障害者の福祉の増進・国民の精神保健の向上を図ることにある」とされていますが、法律の中では精神障害者の強制入院に関する項目が多くなっています。
精神科病院、あるいは精神科病棟において運用される法律になります。

精神保健福祉法に基づく入院形態は5つ!

精神保健福祉法に基づく入院形態は全部で5つあります。

  • 任意入院
  • 医療保護入院
  • 措置入院
  • 緊急措置入院
  • 応急入院

ではそれぞれについてどのような入院形態か解説していきます!

任意入院

本人の同意で入院します。
これ以外に条件を書きようがありません。あえて言えば、入院治療が必要な状態であることというのもありますが…
この「本人の同意」は、例えば“入院することに対して拒否していない”と言った消極的な同意も含まれるとのことです。
なお、精神保健福祉法では「管理者は任意入院となるよう努めなければならない」とされており、可能な限り任意入院にしていく必要があります。
任意入院では原則として開放病棟への入院となり、閉鎖病棟への入院ができませんが、本人が同意した場合に限り、閉鎖病棟への入院も差し支えないとされています。
また隔離や拘束などの行動制限についても任意入院の患者に対しては行えないことになっています。
ただし本人が希望すれば隔離は可能です。
さらに任意入院では患者が「退院したい」と言ったら退院させなければならないことになっています。ただし精神保健指定医の診察により、必要と判断した場合は72時間以内に限り退院制限も可能です。

医療保護入院

精神保健指定医による診察の結果、精神障害者であり、医療や保護のために入院が必要な状態であると診察されたものの、本人の同意が得られない状態の場合に適用されます。
基本的には、精神保健指定医1名の診察と、家族等のうちいずれかの者の同意で入院させます。
なお特定医師1名の診察でも可能ですが、その場合は12時間以内に限られます。
また医療保護入院させることを患者に告知する必要もあります。
なお、最終的に患者を入院させるかどうかは病院管理者(運用上は権限を委任された主治医)の判断・裁量になります。
また退院についても病院管理者(権限を委任された主治医)の判断・裁量になります。
退院については、長期にわたっての入院になることを抑止する目的で、入院時に予測される入院予定期間を定め、入院予定期間を過ぎる場合は退院支援委員会を開催し、入院継続の必要性などを議論します。
この退院支援委員会は、主治医や受け持ち看護師、そして退院後生活環境相談員などで話し合いを行います。患者本人や家族等も出席する場合があります。(出席するケースが多いです)

家族等とは?

一定の欠格事由に該当しない配偶者、親権行使者、扶養義務者、後見人または保佐人を指します。
欠格事由としては、行方不明であったり同意能力を喪失していたりといったことが挙げられています。
意思表示できる家族等が一人もいない場合や、連絡が取れない、意思表示ができない場合などは居住地の市町村長が同意権を持つことになっています。
逆に、家族等がいて連絡が取れているものの入院に同意しない場合は医療保護入院を行えません。
以前は保護者として家族等のうちから1名を選定していましたが、平成26年に廃止されました。

「精神保健指定医」って?

患者に対し、入院を強制したり身体拘束等の行動制限を行う際にそれらの判断を独占的に行えるとされた医師の国家資格です。
後述する措置入院等の判断も行います。

「特定医師」って?

精神保健指定医の診察が受けられない場合で緊急性が高い場合に診察する医師です。
2年以上の精神科での臨床経験が必要です。

措置入院

精神保健指定医2名の診察により、「精神障害者である」「入院させないと自傷他害の恐れがある」と一致した診察結果が得られた場合に都道府県職員の立ち会いのもとで入院の告知を行い、都道府県知事・政令指定都市の市長の権限と責任で強制的に入院させるものです。
また措置入院をさせる診察を行うまでの間にもいくつかの規定が決められています。
退院についても、自傷他害の恐れがないと認められる状態になる必要があります。
入院に不服がある場合は退院請求を行うことができます。

緊急措置入院

措置入院の簡略版みたいなものです。
直ちに入院させないと自傷他害の恐れが著しいと判断できる場合に、精神保健指定医1名の診察で72時間以内に限り入院させることができます。
その72時間の間に、措置入院に移行するか、手続き上一旦退院して他の入院形態(医療保護入院なり任意入院なり)に変更して入院継続させたり、あるいは本当に退院させたりします。

応急入院

医療保護入院の簡略版みたいなものです。
医療保護入院と比べると、「直ちに入院させないと医療・保護を図る上で著しい支障がある」場合となっています。
また、緊急であるが故に家族等と連絡が取れないため同意を得ることができない場合である必要もあります。
それ以外は医療保護入院と同様の条件になります。緊急措置入院同様、入院は72時間(特定医師の場合は12時間)に限ります。
通常、その間に医療保護入院への切り替えのために家族等との連絡を図ることになります。

精神保健福祉法による入院形態のまとめ

分かりやすく表にしてみました。

入院形態精神保健指定医の診断家族等の同意入院できる時間その他
任意入院不要×
(本人の同意が必要)
制限無し原則的に開放病棟
行動制限は原則不可
医療保護入院1名制限無し定期的な入院報告が必要
措置入院2名×制限無し定期的な入院報告が必要
緊急措置入院1名×72時間
(特定医師の場合は12時間)
72時間以内に入院形態を切り替えることが好ましい。
応急入院1名×72時間
(特定医師の場合は12時間)
72時間以内に入院形態を切り替えることが好ましい。

緊急措置入院と応急入院は運用例が少ないため実質は3種類と言えるかと思います。
看護学生の時の実習で出会った患者さんは任意入院か医療保護入院でしたね…

医療観察法に基づく入院

医療観察法(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律)とは、心神喪失等の状態で、殺人や強盗、放火など重大な他害行為を行い、不起訴や裁判で無罪判決となった患者に対して継続的に適切な医療を提供、また必要な観察を行うことで、病状の改善と社会復帰を促していくための法律です。
元々、こういった患者に対しては、措置入院制度が使われてきましたが、症状が改善すると退院してしまうため、退院後に再び症状が出現し犯罪行為を繰り返すといった事態がありました。そして、附属池田小事件の犯人に措置入院歴があったことをうけ、制定された法律です。
医療観察法により指定された、全国約30ヶ所の医療機関(主に精神科病院や精神科病棟を持つ病院)により、医療観察法に対応した病棟が運用されています。
そのため、医療観察法に基づく入院はこれらの医療機関でのみ行われています。
なお医療観察法では入院だけでなく通院も定められています。

まとめ

入院には様々な種類があります。
強制的なものもありますが、治療や感染拡大の防止のために行われるものです。
普通の入院以外は、経験することがあまりないかと思いますが、こんな入院もあるのだと知っていただけたら幸いです。