看取りを行う看護師の視点から、病院で火葬しろという意見に対して意見する

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「死んだら病院でそのまま火葬してしまえ」「病院に火葬場を併設しろ」とか言う、意味の分からないpostをTwitterで見かけました。

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(育休中ですが)看取りも行う看護師としての意見をまとめます。

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病院に火葬場?そんな場所は取れない

病院にもよると思いますが、皆さんが想像する大きな病院ってどういう所にありますか?
岡山県内であれば、例えば倉敷中央病院や岡山市民病院、川崎医科大学附属病院、心臓病センター榊原病院、岡山医療センターあたりかなぁと思うのですが、わりと街中にあることが多いですよね。
…川崎医大付属病院や岡山医療センターは微妙に街中からは外れてるような気がしないこともないですが、とは言え、山奥というわけでもないです。

そんな街中に火葬場は…基本的に無いんですよ。
例えば岡山市の火葬場は中区の東山にありますが、今でこそ街中ですが、元々は町外れの郊外にあたる場所ですからね…
倉敷市の火葬場は種松山ですよ。山の中。夜に走り屋が出そうな道を登ったところです。
どうして街中にないかというと、やっぱり火葬場って忌避される施設なんですよ。
だっていやでしょ?毎日毎日、自宅の横を霊柩車が通るのって。
無神論者の人であっても、なんとなく死を日常で見るのはイヤなものではないでしょうか。
元からあったらしかたないけど、新たにできるとなると…ね。

そもそも病院の役割から言うと火葬場は異質

病院って、基本的には治療を行う場所なんです。
救急車を受け入れているような総合病院であれば確かに毎日のように亡くなる方がいるかもしれませんが、基本的に「生きて退院させる」事が前提なのが病院です。
そんなところに火葬場…必要ですか?
霊安室ですら院内の地図から隠してる病院が多い (1)もっとも私の勤務先は普通に外来の患者さんから見える場所に霊安室あります…看板も掲げてます。どうなのあれ…… のに……

病院にとってのメリットもないことはないけど…

まぁ実を言うと、病院に火葬場があるメリットもなくはないと思います。

精神科病院の場合

精神科病院では、数十年に渡る入院生活によって、家族との縁が完全に断ちきられてしまっている方が少なくありません
そんな方の場合、亡くなった後に誰が対応するのかという問題があります。
病院のソーシャルワーカーが中心となってあらかじめ死後の対応を決めている場合もありますが、そうでない場合は、とにかく連絡のつく家族を総当たりしたり、行政に相談したり、そうしている間に遺体の腐敗を防ぐために処置をしたり…と非常に大変な事になります。
そんなときは確かに火葬場が病院にあると楽かもしれませんね。でもそんな病院やだな…

医療ミスを隠すことができる

これ、病院側からしたらメリットでもありデメリットでもありますが……
病院に火葬場があって、亡くなったら火葬して家族に引き渡しますってなったとき、医療ミスで亡くなってもさっさと火葬してしまえば、家族にバレることなく、またあとからの検証もされることなく闇に葬ることができますよね。
医療ミスを簡単に隠すことができる……それはさすがにちょっと…危険すぎません?

法律の規定から見る問題

日本の法律では、死後24時間以上経たないと火葬してはいけません。
病院で死者が出てそのまま病院で火葬すると仮定すると、24時間は遺体を保管しなければなりません。
…どこに保管するんですか?ほっとくと腐りますよ。
解剖するための遺体を保管するための“冷蔵庫”は存在するんですけど、病院の霊安室の場合、そういうものは設置されていない場合があります。

私の勤務先の場合ですと、基本的にはなくなったらご家族の方に速やかに葬儀会社を手配してもらい、遺体を引き取ってもらいます。
しかし、家族の事情(遠方に住んでいるなど)や生前に契約していた葬儀会社の都合 (2)夜間はすぐに対応できないから、朝まで待ってくれというケースが…… で数時間〜1日程度病院で遺体を安置していたこともあります。
そうなった場合、大変なんですよ…霊安室に安置するにしても、病室に安置するにしても、エアコンや葬儀会社に提供してもらったドライアイスを使って遺体を冷やし続けないといけませんし、勤務交替をまたぐと申し送ってあとの対応を依頼しなければいけません。

もし病院で火葬するとなると、その人が亡くなった勤務帯では、当然火葬まで終わりませんので、申し送る必要があります。
今いる患者さんの事でいっぱいいっぱいの病院・病棟が多い中、更に死んだ人のことまで…となると、業務量がハンパないことになります。
大きな病院であれば毎日誰かしらが亡くなってることでしょうね。そうなると外部委託した方が楽ですよね…それって今と同じなのでは?

“直葬”すれば?

実を言うと、病院で亡くなってすぐに火葬という手段がないわけではないのです。それが「直葬」です。
亡くなった後、葬儀会社が一旦遺体を引き取り、24時間経過以降に速やかに火葬場へ遺体を持って行って火葬するというやり方です。
ちなみに、火葬場は基本的に公共施設のため、葬儀会社を介入しなくても、遺族が全て自分達で手続きすることも可能です。
件のpostの場合、効率的に火葬してしまえということでしょうから、直葬専門のシステムを構築すると言った方向であれば面白いのかもしれませんね。

効率では語れない部分をおろそかにしてはいけない

葬儀や火葬というものは、個人の死生観にも関わってくる問題です。
どんな人にも多かれ少なかれ永久の別れを惜しむ人はいるものだと思います。
そんなときに最後の別れをサポートするのも我々看護師の役割であり、また葬儀会社や火葬場の職員の役割でもあります。
さらに「遺族の感情」や「世間体」「近所づきあい」「故人の宗教」などが複雑に絡み合って、効率だけでは語れないものとなっています。
個々の事情にあった葬儀は必要だと思いますが、システマチックになりきれない側面もあるのがこういう問題ではないでしょうか。

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